社会福祉法人守里会 新聞連載コラム

「可愛い嘘」

～心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて～

ある事業所から心配して連絡が入った。どうも一人暮らしをされている女性が予定通り利用されなかったらしい。お迎えに行くと体調がすぐれず病院に行きたいので利用をキャンセルしたい、と本人が仰ったそうで、事業所からはその後の様子を伺う心配の連絡だった。一人暮らしだと、食事やお風呂、何かと不便を感じているかもしれない、と心から心配してくれていた。
　ピンときた私はすかさず、その方が長く付き合って来られた主治医に連絡してみた。「…そうですか。…そうですよね。いやいや、お元気に過ごされています。」主治医の先生と話しながら私は自然に笑っていた。体調が悪いのも、病院受診も口から出まかせで、ただ家から出たくなかっただけなのだ。実をいうと今までも何度かこんな事があった。始めは心配してすぐに自宅に駆けつけたものだった。けれど何か様子がおかしい。いつもと変わらず過ごしておられ、食欲も会話のパワーもいつもと変わりない。いや、嘘がばれまいとハラハラしているのか、いつもより饒舌になっているかもしれない。今回もそれだ。みんなまんまと騙されちまった。心配してくれた事業所に電話し、それらを伝えながら、電話口で二人、大笑いした。
　お年寄りと一緒に過ごすって何て楽しいんだろう。こんな他愛もない日常の繰り返しに私たちは大笑いし、どこか癒される。嘘を付かれる事がこんなに楽しいなんて、何て幸せな職業なんだろう。必死で体調不良を訴えながら演技するその女性を想像しながら、やっぱり私は笑っていた。