この広告、メッセージは90日以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事でこのメッセージが消せます。
  

Posted by あしたさぬき.JP at

2014年01月29日

「昔の約束」

「昔の約束」

~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~

 昨日、久しぶりにお会いした入居者の息子さん。彼の話は素敵だ。例えば…。
 『「次の休みは、ばあちゃんの家まで自転車で行こう。」私が子供のころ、父は口癖のようにそう言ってくれたけれど、それが無理なんだろうということは何となく知っていた。父は忙しく働いていたし、休日も家にいないことが多かったから。そんな父も80歳を過ぎ介護が必要となった。母一人では大変だと思い、私も父の介護をするようになっ
た。介護と言っても脈絡のない話に相槌を打つ程度のもの。一緒にいると、父はフラっと家の外へ出て行こうとする。その時は、天気も良かったし一緒に外を歩くことにした。結構な距離を歩きながら、私は、ふと「ばあちゃんの家まで自転車で行こう」という父の口癖を思い出した。行先も違うし、自転車にも乗ってはいないけれど。
 それから、私は時間の許すときは父の介護をするようになったが、そのたびに一緒に外を歩いた。結局、ばあちゃんの家へ辿りつくことは出来なかったが、昔出来なかったことを今しているようで、私は楽しみながら歩いた。今思えば、父のあれは徘徊だったのだろう。しかし、私にとって父との外出は童心に戻れる貴重な時間だったし、父もきっと私との昔の約束を覚えてくれていたのだと思う。』
 さて、今日はどんな素敵な話を聞かせてくれるのか。彼に会うたびにそんな期待をしてしまう。


  

Posted by syuri at 00:00Comments(0)介護編

2014年01月28日

「緊張感を吹っ飛ばせ」

「緊張感を吹っ飛ばせ」

~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~

 ちょっとした会がある日の朝、私は結構緊張していた。このままでは、会の本番で声が上擦ってしまうんではないかと思うほどの緊張に耐えかねて、いつもより早く出勤してしまった。
 緊張をほぐそうと施設内を歩いていると「おはよう。」と声にならない声で私に挨拶をしてくれる男性がいた。その男性は半年ほど前に入所してきた方で、脳梗塞を患っている。私が知る限りでは、その方が話したことは一度もない。家族も職員も脳梗塞の為に喋れないものだとばかり思っていた。
 その男性が確かに「おはよう。」と声を掛けてくれたのだ。驚きと嬉しさで「えっ!今、何とおっしゃいました?おはよう?もう一度聞かせてください。」と何とも介護に携わる者とは思えないような返しをしてしまった。そして、その驚きを皆に伝えたくて、「おはようって言ってくれた。」「喋ることが出来るんですよ。」と、多分その時間出勤している全職員に伝えて回ったと思う。そんなことをして気が付けば、会の開始数分前。緊張など忘れていた。っていうか、会そのものを忘れるところだった。
 きっとその男性は、私の緊張で引きつった顔を見て、“ありゃいかん。緊張を忘れさせてやらねば”そう思って「おはよう。」と声を振り絞ってくれたのだ。おかげで、心地よい緊張感で会に臨めたし、いつも通り、低音の効いた地声で、上擦ることなく喋ることができた。ありがとうございます。


  

Posted by syuri at 00:00Comments(0)介護編

2014年01月21日

「いつものやつ…」

「いつものやつ…」

~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~

 施設では、お茶、ホットミルク、コーヒーが常備されていて、入所者は好きな時に、好きなものが飲めるようになっている。
 入所者のキヨコさんは、「この人はコーヒー、あの人はホットミルク」といった具合に、身体が不自由で自分で淹れることができない入所者の嗜好を把握していて、「はい、いつもの。」と配ってくれる。認知症になると記憶することが困難になるとかいう通説は、ここでは通用しないかのようだ。
 しかし、15時になると紅茶やジュースなどが追加されて飲み物は5種類になるのだが、そうなると状況が違ってくる。ホットミルクが好きな女性は、当然キヨコさんにも“ホットミルクが好きな人”と覚えられている。その女性が「たまには、ジュースを飲んでみようかしら。」とお願いしても、運ばれてくるのは“いつもの”。コーヒーが定番の男性が“今は紅茶の気分”でも、運ばれてくるのは“いつもの”。みんな、キヨコさんの厚意に感謝し“いつもの”やつを口にする。
 他人が自分の嗜好を知ってくれているというのは何だか嬉しい。だから、誰もが、キヨコさんの厚意に純粋に感謝している。でも、やっぱり紅茶もジュースも飲みたい。
15時になると、麻痺の残る身体で一生懸命に紅茶やジュースを淹れる方々の姿が見られるようになった。常はキヨコさんにお任せして、15時は自分たちで淹れる。奇妙な良い関係が、ほのぼのした時間を紡ぎ出している。


  

Posted by syuri at 00:00Comments(0)介護編

2014年01月14日

「正月の遊び」

「正月の遊び」

~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~

 今年も一年良い年でありますようにと、施設のみんなで初詣に出かけた。入所者の皆さんは「最近は正月と言っても、まったく正月らしくないな。」と寂しげな様子。
 子供のころ、家族や友達と凧あげや独楽回し、羽根つきなど日本の伝統的な遊びで楽しい時間を過ごした方々にしてみれば、凧の上がっていない正月の空は少し物足りないのだろう。神社までの道中で、入所者の皆さんが教えてくれたのは、お正月遊びには縁起の良い意味も含まれているということ。凧は“高く上がるほど子供が元気に成長する”。羽根つきは“一年の厄をはねる”。独楽回しは“お金が回る、(まっすぐ芯が通っているから)意志を貫く”そんな意味があるらしい。
 そんな伝統的な遊びも、施設ですると、どこか違ったものに見えるから不思議だ。何だかこう、雰囲気はないし安っぽくて、そこには伝統の厳かさなど微塵も感じられない。人生の重鎮である入所者の皆さんには、自分たちだけで遊ぶよりも、子供たちに伝承することこそ相応しいように思う。
 日本の伝統的な遊びは、お父さんやお母さんよりも、おじいちゃんやおばあちゃんが知っていて、一緒に遊べるものばかり。今度、保育所にでも出向いて、子どもたちに「日本にはこんな遊びがあるんだよ」ということをしっかり伝えようと皆で盛り上がった。


  

Posted by syuri at 00:00Comments(0)介護編

2014年01月08日

「素敵な隣人」

「素敵な隣人」

~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~

 入所者のタロウさんは麻痺の残る身体で30分かけて着替えを済ませる。上は襟付きのシャツに下はスラックス。以前なら、上はトレーナーで下はジャージが定番スタイルで、簡単に着ることができるトレーナーやジャージに30分も時間を要することはなかった。この心境の変化はどういうことか?
 タロウさんの隣の部屋に、一人の女性が入所してきた。タロウさんと同じように脳梗塞で麻痺があるが、年齢を聞いて驚くような若々しさがある。どうやらタロウさんはその女性を意識しているようだ。「いつかは、“一緒に昼ごはんを食べよう”と声を掛けるつもりだ。」と嬉しそうに話してくれた。
 それから数日後、遂に、女性に声を掛けたタロウさん。本当は自分も車椅子なのに、女性の車椅子を押して歩き、そのまま食堂まで行った。タロウさんにとって“車椅子を押して歩く”ことは、決して楽ではなかっただろう。これは、タロウさんの強がりか、やせ我慢か、それとも男気か。とにもかくにも、その逞しさに感服した。
 タロウさんにしてみれば、さぞかし張り合いになったことだろう。「声を掛けるぞ!」という胸の高鳴るような目的が出来たのだから。そういうところは、施設ならではかもしれない。何しろ、愛しい人まで数歩の距離。家にいると、なかなかこうはいかない。何歳になっても異性を意識し、若々しくあろうとする。それは自然で、とても素敵なことだと私は思う。


  

Posted by syuri at 00:00Comments(0)