2013年09月24日
「暗黙の了解」
「暗黙の了解」
~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~
トシコさんの家は結構な山の中で、車がないと不便で仕方がない。独り暮らしのトシコさんは車を運転できないから、離れて住んでいる娘さんや近所の人が食べ物や日用品を差し入れてくれる。
ほとんど家を出ることのないトシコさんだが、病院受診や何かしらの用事でどうしても出かけなくてはならない日が月に何度かあるのだけれど、そんな時はバスを使って出かけて、帰りは娘さんが家まで送ってくれるようになっている。トシコさんの家から少し歩くと大型車でも通れそうな道路がある。そこをバスが走るのだ。トシコさんは、その道路でバスを待つ。
他とちょっと違うのは、トシコさんがバスを待っているところはバス停ではないということ。バス停ってポールのような物が立っていて、誰が見ても解るような仕組みになっているものだろう。トシコさんの待っているところにバス停らしい物はないし、ポールも立っていない。待つ場所も毎回微妙に違う。それでも、バスは停まってトシコさんを乗せてくれる。
バス会社の方針か?運転手のご厚意か?どちらにせよ、この辺りでは、お年寄りが立っていると親切に乗せてく
れるのだ。おかげで、トシコさんの立つところにバスは停まり、トシコさんは出かけることができている。それで、トシコさんは何とか独り暮らしを維持することができているのだ。なんだかこちらまで、やさしい気持ちにさせられる。
~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~
トシコさんの家は結構な山の中で、車がないと不便で仕方がない。独り暮らしのトシコさんは車を運転できないから、離れて住んでいる娘さんや近所の人が食べ物や日用品を差し入れてくれる。
ほとんど家を出ることのないトシコさんだが、病院受診や何かしらの用事でどうしても出かけなくてはならない日が月に何度かあるのだけれど、そんな時はバスを使って出かけて、帰りは娘さんが家まで送ってくれるようになっている。トシコさんの家から少し歩くと大型車でも通れそうな道路がある。そこをバスが走るのだ。トシコさんは、その道路でバスを待つ。
他とちょっと違うのは、トシコさんがバスを待っているところはバス停ではないということ。バス停ってポールのような物が立っていて、誰が見ても解るような仕組みになっているものだろう。トシコさんの待っているところにバス停らしい物はないし、ポールも立っていない。待つ場所も毎回微妙に違う。それでも、バスは停まってトシコさんを乗せてくれる。
バス会社の方針か?運転手のご厚意か?どちらにせよ、この辺りでは、お年寄りが立っていると親切に乗せてく
れるのだ。おかげで、トシコさんの立つところにバスは停まり、トシコさんは出かけることができている。それで、トシコさんは何とか独り暮らしを維持することができているのだ。なんだかこちらまで、やさしい気持ちにさせられる。
2013年09月17日
「やさしさ」
「やさしさ」
~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~
敬老の日を控えた3連休。家に帰っていく入所者や面会にくる家族で、人の出入りが多く賑やかだった。連休の真ん中の日曜日、台風の影響で雨が降っていたけれど、ミチコさんの家族は県外から面会に来てくれた。
朝から準備をするミチコさん。そんな中、ミチコさんは戸棚からタオルを引っ張り出して綺麗にたたんでベッドの上に並べている。脳梗塞で麻痺の残るミチコさんには決して楽な作業ではないのに、なぜこんなことをしているのだろうかと不思議に思った。
そこへ、ミチコさんの家族が登場。駐車場に車を停めて施設まで歩いてくる。傘をさしていても、横から降り込んでくる雨のせいで髪や服は濡れてしまっていた。「明日には帰らないといけないので、今日来ました。こんなに降るなんてねぇ」と笑いながらミチコさんの居室へ。その姿を目の当たりにしたミチコさんは、さっき並べていたタオルを家族に差し出した。家族は自分で頭や肩を拭いて、ミチコさんは背中を拭いてあげている。「こんな雨降りに会いに来なくてもいいのに。」と言うミチコさんの顔はとても嬉しそうだった。
朝から並べていたタオルはこのためだったか。ミチコさんの優しさを垣間見た瞬間だった。それから、しばらくの間ミチコさんと家族は取り留めのない話で盛り上がっていた。タオルの話題は出ていなかったけど、ミチコさんは別段そのことを口にする様子はなさそうだ。でも、きっと家族は気付いているのだろう。見えないものに価値がある。
~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~
敬老の日を控えた3連休。家に帰っていく入所者や面会にくる家族で、人の出入りが多く賑やかだった。連休の真ん中の日曜日、台風の影響で雨が降っていたけれど、ミチコさんの家族は県外から面会に来てくれた。
朝から準備をするミチコさん。そんな中、ミチコさんは戸棚からタオルを引っ張り出して綺麗にたたんでベッドの上に並べている。脳梗塞で麻痺の残るミチコさんには決して楽な作業ではないのに、なぜこんなことをしているのだろうかと不思議に思った。
そこへ、ミチコさんの家族が登場。駐車場に車を停めて施設まで歩いてくる。傘をさしていても、横から降り込んでくる雨のせいで髪や服は濡れてしまっていた。「明日には帰らないといけないので、今日来ました。こんなに降るなんてねぇ」と笑いながらミチコさんの居室へ。その姿を目の当たりにしたミチコさんは、さっき並べていたタオルを家族に差し出した。家族は自分で頭や肩を拭いて、ミチコさんは背中を拭いてあげている。「こんな雨降りに会いに来なくてもいいのに。」と言うミチコさんの顔はとても嬉しそうだった。
朝から並べていたタオルはこのためだったか。ミチコさんの優しさを垣間見た瞬間だった。それから、しばらくの間ミチコさんと家族は取り留めのない話で盛り上がっていた。タオルの話題は出ていなかったけど、ミチコさんは別段そのことを口にする様子はなさそうだ。でも、きっと家族は気付いているのだろう。見えないものに価値がある。
2013年09月03日
「ありがとう、タロウさん」
「ありがとう、タロウさん」
~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~
先日、タロウさんが他界された。タロウさんは奥さんのカズエさんと共に入所していた。そんなタロウさんに癌が見つかったのは一年ほど前のこと。歳を取りすぎていること、服用している薬の関係などで完全な治療は行わなかった。その時に言われた余命は半年。それを思うと、タロウさんは半年長く生き抜いたことになる。
カズエさんや職員の話を聞く限りでは、亡くなる日の朝、タロウさんは朝食を済ませ、友人たちと過ごした後に居室へ戻った。「もう夜か?眠くなってきた。」とカズエさんに言って布団を掛けてもらい、そのまま眠るように亡くなったのだと言う。正確には様子を見に行った職員が、呼び掛けに反応の薄いタロウさんを発見し病院へ行ったのだが、病院の先生が「綺麗な亡くなり方ですね。病院は何もしていない。今回は奥さんと家族と施設が最期を看取って差し上げたのと同じなのですよ。タロウさんは幸せな方です。」そう話してくれた。
亡くなったことは施設で待つ職員にも伝えられた。その雰囲気で周りの入居者たちは全てを察する。タロウさんと仲の良かった方は、「病院から自宅へ帰る際に、施設の前を通ってくれたら…。それが無理ならせめて病院の方を向いて。」そう言って手を合わせた。
最後に残されたもの。優しい伴侶に温かい家族、良い先生と無二の友。タロウさんが如何に素敵な人生を歩まれてきたのか、そして、人の生き死にとは何か教えられたような気がした。
~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~
先日、タロウさんが他界された。タロウさんは奥さんのカズエさんと共に入所していた。そんなタロウさんに癌が見つかったのは一年ほど前のこと。歳を取りすぎていること、服用している薬の関係などで完全な治療は行わなかった。その時に言われた余命は半年。それを思うと、タロウさんは半年長く生き抜いたことになる。
カズエさんや職員の話を聞く限りでは、亡くなる日の朝、タロウさんは朝食を済ませ、友人たちと過ごした後に居室へ戻った。「もう夜か?眠くなってきた。」とカズエさんに言って布団を掛けてもらい、そのまま眠るように亡くなったのだと言う。正確には様子を見に行った職員が、呼び掛けに反応の薄いタロウさんを発見し病院へ行ったのだが、病院の先生が「綺麗な亡くなり方ですね。病院は何もしていない。今回は奥さんと家族と施設が最期を看取って差し上げたのと同じなのですよ。タロウさんは幸せな方です。」そう話してくれた。
亡くなったことは施設で待つ職員にも伝えられた。その雰囲気で周りの入居者たちは全てを察する。タロウさんと仲の良かった方は、「病院から自宅へ帰る際に、施設の前を通ってくれたら…。それが無理ならせめて病院の方を向いて。」そう言って手を合わせた。
最後に残されたもの。優しい伴侶に温かい家族、良い先生と無二の友。タロウさんが如何に素敵な人生を歩まれてきたのか、そして、人の生き死にとは何か教えられたような気がした。