2013年09月03日

「ありがとう、タロウさん」

「ありがとう、タロウさん」

~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~

 先日、タロウさんが他界された。タロウさんは奥さんのカズエさんと共に入所していた。そんなタロウさんに癌が見つかったのは一年ほど前のこと。歳を取りすぎていること、服用している薬の関係などで完全な治療は行わなかった。その時に言われた余命は半年。それを思うと、タロウさんは半年長く生き抜いたことになる。
 カズエさんや職員の話を聞く限りでは、亡くなる日の朝、タロウさんは朝食を済ませ、友人たちと過ごした後に居室へ戻った。「もう夜か?眠くなってきた。」とカズエさんに言って布団を掛けてもらい、そのまま眠るように亡くなったのだと言う。正確には様子を見に行った職員が、呼び掛けに反応の薄いタロウさんを発見し病院へ行ったのだが、病院の先生が「綺麗な亡くなり方ですね。病院は何もしていない。今回は奥さんと家族と施設が最期を看取って差し上げたのと同じなのですよ。タロウさんは幸せな方です。」そう話してくれた。
 亡くなったことは施設で待つ職員にも伝えられた。その雰囲気で周りの入居者たちは全てを察する。タロウさんと仲の良かった方は、「病院から自宅へ帰る際に、施設の前を通ってくれたら…。それが無理ならせめて病院の方を向いて。」そう言って手を合わせた。
 最後に残されたもの。優しい伴侶に温かい家族、良い先生と無二の友。タロウさんが如何に素敵な人生を歩まれてきたのか、そして、人の生き死にとは何か教えられたような気がした。

「ありがとう、タロウさん」


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