2013年07月23日

「マチコさんの絶対音感」

「マチコさんの絶対音感」

~心に積み重なる様々な出来事をこのコラムに寄せて~

 マチコさんは99歳。自称作曲家。耳が遠くて周りの人の声はあまり聞こえていないようだ。
 そんなマチコさんはときどき鼻歌を歌っている。誰かの歌でもなく、流行の歌でもないマチコさんオリジナルの曲だ。マチコさんが言うには「周りの人の声がこんなふうに聞こえる」と言っている。つまり、耳の遠いマチコさんに周りの音は曲として聞こえているのだろう。聞こえたままを鼻歌にするマチコさん。
 先日も「今日も曲を作った」と嬉しそうに言っていた。その曲のヒントはどこから得たのか訊ねると、「隣に座っていた兄さんが歌っていたから、ちょっとだけ拝借した」と言う。その日、マチコさんの隣に座っていたのはトオルさんだった。脳梗塞で上手く喋ることができずに、何かあれば「ウー、ウー」と言って訴えてくる。ともすれば「うるさい」と捉えられるかもしれないトオルさんの訴えを、マチコさんは「歌っている」と言うのだ。
 ある音を聞いたときに音名が瞬時にわかる能力がマチコさんにはあるのかもしれない。それが、周りの喧騒を音楽へと変えて、すべての出会いが素敵なものになっている。そして、「ウー、ウー」と訴えるトオルさんを、誰も「うるさい」とは言わない。それは「歌っている」と言ったマチコさんの影響だろう。周りの人まで幸せにするマチコさんは真の音楽家なのだ。

「マチコさんの絶対音感」


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